【全国助産師教育協議会/日本看護協会/日本産婦人科医会/日本産科婦人科学会/日本産婦人科感染症学会/日本周産期・新生児学会/日本小児科学会/日本助産学会/日本助産師会(五十音順)】
2021年10月29日
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」に関する要望および質問書
団体名:リプロ・リサーチ実行委員会
標記の件につきまして、新型コロナウィルス感染症流行時のいま、女性がより人間的な妊娠・出産・産後ケアを受けられるよう、貴会への要望および質問をまとめましたので、ご検討下さい。なお、質問については11月19日までにご回答をお願いします。
リプロ・リサーチ実行委員会は、女性と赤ちゃんの人権が守られることを支持します。
私たちは、日本国内外在住の産科医療・助産に関わる医療者、研究者、妊娠出産育児サポート専門職 など有志の団体です。
WHO(世界保健機関)推奨事項とICM(国際助産師連盟)の提言に賛同し、厚生労働省より提示されている「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本産婦人科感染症学会より発表された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応」、そしてそれに伴い変化した現場のケアが科学的根拠と人権に基づいたものとなるよう、早急に見直されるべきと考えます。
1.「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第5.3 版」の「11. 妊婦および新生児への対応」および日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本産婦人科感染症学会の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応」は不適切であり、見直しを求めます。
現在、医療機関で出産した女性や家族、医療者などから、同手引きの「11. 妊婦および新生児への対応」 に基づいた不適切な対応に関する数多くの証言が私たちのもとに寄せられています。
この診療の手引きは、各産科医療機関が状況に合わせて解釈することが可能な部分が多く、一貫したガイドラインではありません。また、産科ケアについては科学的根拠に基づいていない部分が見受けられます。
これにより各産科医療機関では一貫性とエビデンスのない感染対策が実施され、様々な非人間的で不必要な医療的介入が行われています。
妊娠・出産・産後の経験は女性・赤ちゃん・家族にとってかけがえのない経験です。しかし現在のコロナ禍の産科ケアは、その人間的な側面を尊重しておらず、女性の妊娠・出産・子育てにおける 苦悩やストレスの訴えに耳を傾けていません。それにより母子の愛着形成、育児不安、産後うつは すでに増加しています。そして将来の女性・赤ちゃん・家族全体の発達障害・精神疾患、ひいては 虐待・自殺率の増加が懸念されます。
2.世界標準の推奨事項に基づき、新型コロナウィルス感染拡大下においても、すべての女性が安全で 肯定的な出産を経験する権利を保障することを求めます。
世界保健機関(WHO)ならび国際助産師連盟(ICM)、英国産婦人科医学会(RCOG)、英国助産師会(RCM)、国際産婦人科連合(FIGO)は、 COVID-19 の感染が確認されているか否かにかかわらず、すべての女性が安全で肯定的な出産を経験する権利があるとしています。
分娩担当助産師や医師は、女性・赤ちゃんと家族の権利と尊厳を最大限に尊重することを保障する役目があり、現場の医療者はそれを望んでいます。しかしエビデンスに基づく明確なガイドラインがないため、女性・赤ちゃんは過剰な介入を強いられ尊重されていません。同時に、ひっ迫した医療資源の中で医療職者の無力感や 離職の一因となっています。
3.貴会がWHO、ICM、RCOG、RCM、FIGOの推奨事項に基づいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する手引きを作成・改訂することを求めます。
科学的エビデンスに基づいていない日本の多くの産科医療現場での対応によって、女性の人権が 侵害されていることを危惧しています。厚生労働省は、WHO、ICM、RCOG、RCM、FIGOの推奨事項に基づいた手引きを作成し、それにより産婦人科学会、産婦人科感染症学会、産婦人科医会ほか、全ての関係学会や医療専門家も、世界水準の性と生殖に関する健康を得る女性の権利はじめ、それら推奨事項を認識するよう努める義務があると考えます。
参考:ICM 国際助産師連盟提言からの抜粋
1)女性には、医療従事者から適切な説明を受け、自己決定権が保障され、分娩経過やあり得る 医療行為、本人と赤ちゃんの健康状態について明確な情報を得て、その医療行為を選ぶ権利が あります。
2)様々な国際機関が推奨する必要な保護対策を講じて、COVID-19陽性、陰性、無症状者 すべて、施設入院時から分娩過程含め、そのプロセスに付き添われる権利があります。 女性が選んだバースパートナーの継続的な付き添いのもと支え合って迎えることにより、赤ちゃんの誕生という特別な体験を、肯定的で安全な出産体験にすることができます。
3)産科的な理由がなくルーチンで陣痛誘発・帝王切開・鉗子分娩をすることは、女性と赤ちゃんの合併症リスクを上昇させ、入院期間延長、医療機関の負担増加に影響します。 こうした医療介入はCOVID-19感染リスクを増加させ、かつ女性・赤ちゃん・家族の出産体験の満足度を低下させる 可能性が強まります。したがって、不必要な医療的介入は即座にやめる必要があります。
4)産後ケアとして、 早期母子接触(Skin-to-skin contact)と母乳育児は、母子の健康全般 への利点が科学的に証明されていて、控えるべきではないこと。 WHOは、COVID-19 陽性女性においても最大限の衛生対策を講じた授乳継続の安全性を証明し、推奨事項として発表してい ます。
COVID-19の感染が確認されているか否かに関わらず、安全で納得がいく分娩を経験する権利が女性から奪われることは、「女性への暴力」と定義できます。この暴力はいかなる緊急事態宣言発令中であっても正当化されません。
厚生労働省より医療施設・職業団体に向けて科学的エビデンスに基づく新たな手引きが直ちに発出されること、関係学会等から手引きが作成・改訂されること、明確なガイドラインのもと現場の方針が医療利用者である女性と助産師・医師の対話のもとに改善されることを求めます。
以上
(参考文献リンク)
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質 問 書
以下質問いたします。
a. WHOはじめ、ICM、FIGO、RCOG、RCMが科学的根拠に基づいて推奨したガイドラインと合致した手引きを作成すべきとお考えですか。
b. 現在の妊娠・出産・産後のプロセスにおいて、女性の人権が守られるべきとお考えですか。
c. 現在の産科医療体制に改善すべき点があるとお考えですか。
あるとすれば、どのようなことでしょうか。具体的にお願いいたします。
d. 各施設の方針の違いや医療利用者の経験について、公的機関による実態調査を予定していますか。
予定している場合、どのような調査でしょうか。具体的にお願いいたします。
e. 現場の方針が医療利用者である女性と医師・助産師との対話のもとに改善されるべきとお考えですか。
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